第48回日本アカデミー賞 vs. キネマ旬報ベストテン!受賞結果を徹底比較
令和7年3月14日に第48回日本アカデミー賞授賞式が行われ、各部門の最優秀賞が発表された。
そこで世界最古級の映画賞とされる第98回キネマ旬報ベストテンと結果を比較したい。
前提として、それぞれの選考方法を確認する。
日本アカデミー賞は約4千人いる「映画製作に従事する映画人」で構成する日本アカデミー協会会員の投票により決まる。
最初に「優秀賞」を5作品選び、そこから更に投票を行い「最優秀賞」が選ばれる。
選考する人が4千人と多いことからか、やや大衆の感覚に近い作品が選ばれる傾向にある。
一方、キネマ旬報ベストテンは、映画評論家や新聞記者、映画雑誌編集者などから選抜した120人前後の選考委員によって行われる。
各選考委員が1位を10点、2位を9点、3位は8点・・・10位は1点として評価を行い、その合計点で「ベストテン」を決める方式。
それぞれの「最優秀」と「1位」は次のとおり。
【脚本賞】
日本アカデミー賞:野木亜紀子(「ラストマイル」)
キネマ旬報:野木亜紀子(「ラストマイル」)
個人的には全く納得いかない。
あんな破綻したストーリーを書いた人間が選ばれるのか。
ツッコミだらけのストーリーなのに、多くの人が異常に感じないという意味では優秀な脚本なのかも。
【監督賞】
日本アカデミー賞:藤井道人(「正体」)
キネマ旬報:三宅昌(「夜明けのすべて」)
私は「正体」の原作小説を読んだが、長い小説を上手く2時間にまとめたという意味で素晴らしいと思うが、映画的な趣きの度合いは「夜明けのすべて」の方が上回っていた。
【助演女優賞】
日本アカデミー賞:吉岡里帆(「正体」)
キネマ旬報:忍足亜希子(「ぼくが生きている、ふたつの世界」)
「正体」での吉岡里帆は重要な役を担当してたと思うが、インパクトはなく、さほど印象にも残っていない。
忍足亜希子(おしだりあきこ)は、映画内で、聾者である忍足が聾者を演じる。
「ぼくが生きている、ふたつの世界」は耳の聞こえない両親の下で育った青年の物語で、映画自体が大変面白く、特にラストで忍足が何気なく息子に語る一言に涙腺が崩壊した。
助演女優賞はキネマ旬報の選出の方に納得。
【助演男優賞】
日本アカデミー賞:大沢たかお(「キングダム 大将軍の帰還」)
キネマ旬報:池松壮亮(「ぼくのお日さま」、「ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ」)
キングダムシリーズは全く観ていないので評価不能。
「ぼくのお日さま」は鑑賞した。
前半は美しい映像と物語なのだが、後半、池松が演じる荒川がゲイであることが分かるところあたりから、観客を全く違う方向に連れていき、放り出された形で映画は終わる。
これを「余韻たなびく素晴らしい映画」と捉えるのか、「意味不明」とするかは難しいところ。
私は正直「意味不明」派。
それはともかく「ぼくのお日さま」というインディペンデント系作品を選ぶあたりが、キネマ旬報らしい。
【主演女優賞】
日本アカデミー賞:河合優実(「あんのこと」)
キネマ旬報:河合優実(「ナミビアの砂漠」「あんのこと」)
どちらも河合優実。
映画ファンとしては河合優実一択といったところか。
河合は下積みといっていい期間も長かったし、キャリアを積んでの受賞。
ただ、「ナミビアの砂漠」「あんのこと」ともに暗く影のある役。
現在上映中の「悪い夏」の河合優実も悲劇の女性役。
似たようなキャラを演じることが多くなっているので、今後はコメディにも挑戦して欲しい。
ちなみにキネマ旬報の2位は「江口のりこ」。
昨年公開の「愛に乱暴」は、江口のりこ大爆発な作品なので、是非、観て欲しい。
【主演男優賞】
日本アカデミー賞:横浜流星(「正体」)
キネマ旬報:松村北斗(「夜明けのすべて」)
「正体」は無実の罪を着せられた死刑囚が脱獄して、偽名と変装をして日本を転々とする物語。
日本アカデミー賞の方は七変化するところが評価されて横浜流星が選出されたものと思われる。
一方、「夜明けのすべて」の松村北斗は「パニック障害」に陥り、仕事を転職せざるを得ない状況に追い込まれ、自暴自棄になっているところから立ち直っていく青年を見事に演じていたと思う。
作品自体も大変面白いので、松村北斗は、いい作品にめぐりあったと思う。
ちなみにキネマ旬報の2位に「侍タイムスリッパー」の山口馬木也が入っていた。
個人的には朴訥とした田舎侍を完璧に演じていた山口に獲って欲しかった。
【作品賞】
日本アカデミー賞:侍タイムスリッパー
キネマ旬報:夜明けのすべて
日本アカデミー賞でも「夜明けのすべて」が最優秀に輝くと思っていた。
それくらい脚本も、演出も、映画的な趣きも「夜明けのすべて」が抜きんでていた。
だからといって「侍タイムスリッパー」がダメということではない。
ベタなプロットにも関わらず、あれだけのエンタメに仕上がっていたのだから、最優秀でも不思議ではないし、監督賞もあげたいくらい。
ただ、「侍タイムスリッパー」は、キネマ旬報の選考委員には刺さらなかったのだろう。
というのも、「侍タイムスリッパー」は、キネマ旬報の方にはベスト10にも入っていない。
ちなみにキネマ旬報のベスト10は次のとおり。
1位:「夜明けのすべて」
2位:「ナミビアの砂漠」
3位:「悪は存在しない」
4位:「ぼくのお日さま」
:「Cloud クラウド」
6位:「ぼくが生きてる、ふたつの世界」
7位:「ルックバック」
8位:「青春ジャック止められるか俺たちを2」
9位:「ラストマイル」
10位:「あんのこと」
さすがにキネマ旬報。
メジャー会社(東宝・東映・松竹)の配給作品は「ラストマイル」のみ。
恐らく2位から4位の作品は、普段映画を観ない人には全く理解不能な作品。
だからこそ「キネマ旬報ベストテン」は必要だ。
選び方によって、選ばれる作品も違ってくるって、メチャクチャ面白い。
日本アカデミー賞とキネマ旬報ベストテンの、どちらが正しいとか、公平ということはなく、どちらも正しく、公平なのだ。
こういった映画賞というのは、普段映画を観ない人に対して、大変参考になる情報。
「映画賞なんて興味ない」という方もいらっしゃるが、映画賞が映画界に果たす役割は大きいと思う。
難しいことを考える必要はなく、「今年の作品賞はどれになるかなぁ!?予想してみよう!」と単純に楽しめばいい。
また、普段映画を観ない人は、各映画賞を参考に興味のある作品を配信で観て、いつかは映画館に足を運ぶことを望む。