映画『八犬伝』鑑賞記:ネタバレと共に紐解く物語の魅力と深作版「里見八犬伝」との違い

映画「八犬伝」を公開から二日目に鑑賞。
監督は映画「ピンポン」を撮った曽利文彦。

主演は役所広司。
1982年から朝日新聞に連載された山田風太郎の小説「八犬傳」が原作。

「八犬伝」といえば江戸時代を生きた滝沢(曲亭)馬琴の『南総里見八犬伝』であり、これまでも何度か映像化されてきた。

里見家に殺された玉梓(たまずさ)の怨霊と「八犬士」と呼ばれる八つの珠を持つ八人の剣士たちの戦いの物語。

今回公開された「八犬伝」は他の作品と違い、八犬士たちの物語と並行し、それを創造する滝沢馬琴の半生も描かれる。

個人的な評価としては「Aー」。

公開前のCM動画は全く訴求力がなく、面白そうに見えなかったし、上映時間が2時間半と長いので鑑賞を迷ったが、実際は自信を持って人に勧められる娯楽大作だった。

本作は滝沢馬琴が「八犬伝」を創作する「実」のパートと八犬伝の物語の「虚」のパートが交互に描かれて進んでいくが、これが絶妙な緩急となって2時間半が長く感じない。

当然「緩」のパートにはアクションシーンなどなく、セリフ劇となるが、これがいい。
馬琴の自宅へ暇つぶしにやってくる葛飾北斎(内野聖陽)と馬琴との会話劇が主になるが、堅物の馬琴と自由奔放な北斎の対照的な二人の会話が気持ちいい。

ある日、馬琴と北斎が忠臣蔵と四谷怪談を混ぜた芝居を観に行き、鑑賞後に舞台下の奈落で芝居を作った鶴屋南北(立川 談春)と創作に関する問答をするが、これも興味深くて面白い。

悪が栄える「実」の世界であるが、せめて「虚」の世界だけでも正義が成就する物語を作りたいとする馬琴。

一方、南北は四谷怪談という「虚」の幽霊話に悪がまかり通る「実」の世界を投影し、勧善懲悪の物語を馬鹿にする。

どちらの主張にも一理あり、考えさせられる。

また、馬琴が息子を失い、妻を失い、失明し、息子の妻であるお路の口述筆記により最終話まで完成させるシーンは涙なしでは観られない。(全て史実。)

「虚」の部分のパートも見応えがある。
八犬士たちのチャンバラシーンは迫力があるし、特に悪役の玉梓を演じた栗山千明さんがいい。

栗山千明は美しさと怖さを同時に表現できるので、日本映画界にとって貴重な人材だと思う。

馬琴の八犬伝の映像化で最も有名な作品は1983年に角川映画として製作された深作欣二監督の「里見八犬伝」である。

深作版と今回の「八犬伝」の虚のパートのストーリーは大きく違うのだが、これも見どころの一つだと思う。

上映中の「八犬伝」と深作版「里見八犬伝」の主な違いは次のとおり。

①伏姫・八房
 「八犬伝」では前半に土屋太鳳が演じる伏姫と犬の八房の物語が描かれるが、深作版では伏姫と八房の物語は絵巻物に描かれた100年前の話としてセリフで語られるだけで、具象化された形では出てこない。

ただし、深作版の伏姫は女優の松坂慶子が声のみで複数回登場する。

②静姫
深作版には薬師丸ひろ子が演じる「静姫」というヒロインが登場する。
深作版は妖怪として蘇った玉梓と息子の素藤(もとふじ)が里見家を滅ぼすところから物語が始まり、唯一の生き残りが「静姫」。

この静姫と千葉真一が演じる犬山道節が八犬士を探し出し、玉梓を倒しに向かう。
しかも最後に玉梓にとどめを刺すのは八犬士ではなく静姫となっている。

③八犬士のメインキャラ
「八犬伝」の八犬士のメインは渡邊圭祐が演じる犬塚信乃であったが、深作版は真田広之が演じた犬江親兵衛が主演となっている。

性格も全然違っていて、深作版の犬江親兵衛は侍に憧れる荒くれヤンキー兄ちゃん。
玉梓とは別に八犬士たちから静姫を奪い、大名に引き渡して侍になろうと企む。

しかし、根が悪い奴ではないので静姫と行動を共にするうちに恋仲になっていく。
深作版では静姫と犬江親兵衛の長いセクロスシーンを鑑賞できる。

ただし、薬師丸ひろ子のオッパイを拝むことはできない。
一つ朗報としては、深作版で玉梓を演じた夏木マリの見事なヌードシーン(オッパイあり)は見れる。

なお、「八犬伝」の栗山千明版の玉梓はオッパイを出さないが、夏木マリに勝るとも劣らない迫力のある玉梓は一見の価値あり。

④八犬士の年齢・性別等
「八犬伝」に出てくる八犬士は全員同年代の若者だったが、深作版はオジサン、青年、少年の混合。
そして犬坂毛野は女性で志穂美 悦子が演じた。
また、「八犬伝」では最後の戦いで3人が戦死するも、最後に伏姫の力で息を吹き返すが、深作版では犬江親兵衛だけが生き残り、静姫とともに生きていくところで終わる。

⑤浜路の設定
「八犬伝」で河合優実が演じた浜路はラストで赤ん坊の頃に大鷲にさらわれた里見家の姫であることが分かるが、深作版での浜路は犬塚信乃の義理の妹で、物語の途中で玉梓の部下にさらわれたあげく妖怪にされてしまい、戦いの途中で死んでしまう。

恐らく浜路の設定は「八犬伝」の方が馬琴の原作に近いと思われる。

⑥名刀村雨
「八犬伝」では玉梓を倒す武器の一つとして「名刀村雨」が出てくるが、深作版では省略されている。

その代わり、深作版では伏姫が残した「笛」を使って玉梓の部下たちを苦しめる。
また、魂の形で伏姫が現れ「弓矢」を渡す。

その弓矢は静姫しか引くことができず、この弓矢で静姫が玉梓を倒す。

「八犬伝」も深作版「里見八犬伝」も、どちらも面白いので、是非、両作品ともご鑑賞あれ。

ちなみに「八犬伝」の劇中、忠臣蔵と四谷怪談の芝居が出てくるが、深作欣二監督は1994年に「忠臣蔵外伝 四谷怪談」という映画を製作している。

忠臣蔵と四谷怪談を知らない人は、この作品を観てから「八犬伝」を観てもいいかもしれない。

なお、「忠臣蔵外伝 四谷怪談」では「お岩」役を演じた高岡早紀の見事な、見事なオッパイが見れるので是非ご堪能あれ。

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