ネタバレ満載!黒沢清監督「蛇の道」:衝撃のラストと2つのバージョン徹底比較!

映画「蛇の道」(へびのみち)を公開初日に鑑賞。
本作は子供を殺された親の復讐劇となっている。

監督は黒沢清。
本作は黒沢監督が1998年に撮った作品のセルフリメイクとなっている。

98年版は劇場公開されてなく、「Vシネマ」という形で公開されている。

Vシネマとは「映画館公開のためではなく、最初からビデオとして発売したり、レンタル店に配給したりするために作った映画作品」のこと。

この度フランスの映画製作会社から黒沢監督に「リメイクするなどの作品にするか」と声がかかり、黒沢監督が「蛇の道」を選んだという。そして全編フランスで撮影。

そういった経緯もあり、今回公開された「蛇の道」の製作国は日本・フランス・ベルギー・ルクセンブルグとなっている。

98年版の主演は哀川翔。
今回公開された「蛇の道」は柴咲コウが主演。

98年版は鑑賞前にネット配信(Hulu)で視聴。
あらすじは哀川翔版も柴咲コウ版も、ほぼ同じ。

もちろん改変と肉付けされたところもある。
そのあたりは後述するとして、ネタバレあらすじは次のとおり。

<ネタバレあらすじ>

8歳の娘を残忍に殺された中年男性アルベール・バシュレは、偶然に知り合った精神科医の新島小夜子(柴咲コウ)とともに復讐を開始する。

バシュレは、かつて潜入取材していた財団の中のサークルメンバーが怪しいと思い、小夜子の力を借りて幹部の男を拉致し、町はずれの密室に監禁する。

男は自分は殺していないと言い張るが、バシュレと小夜子は男を鎖でつなぎ、ロクな食事も与えず、トイレにも行かせなかった。

そのうちに男は別の男がバシュレの娘を殺したと言い出し、バシュレと小夜子は、その男も拉致し、同様に拷問にかける。

ある日、小夜子はバシュレに内緒で監禁している男二人に別の人間を犯人に仕立てるように口裏を合わせろという。

小夜子の提案どおり二人は財団の警備をやっていた男が犯人だと言い出す。
それを聞いた小夜子は鎖は二組しかないからと言って、二人の前に拳銃を置き、殺し合いをさせ、一人は銃殺されてしまう。

生き残った男によると、財団の古い倉庫に警備の男の居場所が分かる資料があるという。

バシュレと小夜子は生き残った男の鎖を外し、倉庫を目指す。
そこには警備の男の写真があったが、同時に子供と思われる体の一部の標本があった。

財団の秘密のサークルでは人身・臓器売買や、子供を惨殺する動画をマニアに販売をしているのではないかと疑っていたバシュレは、標本見て事実だと確信し、監禁していた男を撃ち殺してしまう。

バシュレと小夜子は警備の男を拉致監禁し、再び拷問にかける。
またもや小夜子はバシュレがいない間に警備の男に別人であると言い張れば助けるとそそのかす。

警備の男は小夜子のいうとおりバシュレに告げて、本物の警備の男は財団の創設者のアジトにいて、その場所を知っているという。

バシュレと小夜子は警備の男を連れてアジトに向かう。
到着すると自分が警備の男ではないというウソがばれて、警備の男はバシュレに殺される。

中に入っていくと拳銃を持った財団の人間たちがいたが、次々とバシュレは撃ち殺していく。

気が付くと小夜子は消えていて、小夜子を追いかける形でバシュレは中に入っていく。
すると複数のモニターに子供の映像が映し出されるとともに小夜子の声がする。

「私の娘はここで殺された。」

小夜子もバシュレと同様に娘を殺されていたのだった。

バシュレがアジトの奥に進むと、多くの子供たちとともにバシュレの妻がいた。
バシュレの妻は死んだ財団の創設者の仕事を継承していた。

バシュレは妻を殺し、復讐は終わったかに見えたが、バシュレの背後から現れた小夜子に殴られ、今度はバシュレが監禁されてしまう。

実はバシュレは知らぬ間に幼児惨殺のビデオを販売していたのだった。

自宅にもどった小夜子は日本にいる夫とビデオ通話をする。
会話の最後に小夜子は「あなたが娘を売ったのね。」と告げる。

<ネタバレここまで>

黒沢清監督らしく、脚本に緻密さ・精密さはなく、ツッコミどころ満載なのだが、スクリーン上に現れる不穏な空気と、その空気が作り出す絶妙な緊張感が冒頭からラストまで続く。

黒沢監督自身がインタビューで語っていたが、復讐の物語は後味の悪いものにならざるを得ないとして意図的に鑑賞後感が悪くなるように作ってある。

今回の柴咲コウ版は哀川翔版よりも更に「何故人は復讐するのか?」がテーマとなっている。

そのあたりも含めて哀川翔版との違いを3つほど挙げていきたい。

①登場人物の設定
哀川翔版の新島は数学の塾講師だったが、柴咲コウ版の新島小夜子は精神科医。
精神科医に設定変更したことにより、復讐の動機がより明確になった。

また、子供の人身売買をする組織は哀川翔版では暴力団だったが、柴咲コウ版では「財団」という形になっていた。

②小夜子の患者「吉村」の登場
柴咲コウ版では新島小夜子が精神科医という設定になり、患者として西島秀俊が演じる吉村という男が出てくる。

この吉村は小夜子たちの復讐には何ら関係しない。
しかし、この物語のテーマに重要な役割を果たす。

フランス語が話せない吉村は仕事でフランスを訪れており、慣れない環境で体調を崩していた。

小夜子は吉村に日本への帰国を勧めるが、吉村は日本に帰ったら自分の人生は終わりだという。

すると小夜子は「本当に怖いのは終わらないことだ。」という。

このセリフにより、何故に小夜子が恐ろしい復讐をするのかを暗示させる。
娘を惨殺された怒りと苦しみを終わらせるためだった。

また、短いシーンではあったが、小夜子が勤務する病院で自殺した遺体が運ばれ、妻が嘆く場面がある。

その自殺した男は人生に絶望したらしい。
この男もまた苦しみを終わらせるために行動したのだ。

③小夜子の夫の登場
哀川翔版におけるバシュレ役にあたる人物は香川照之が演じていたが、妻役は登場しなかった。

一方、柴咲コウ版においては夫である青木崇高が演じる宗一郎が登場。
映画のラストで娘を財団に売ったのは宗一郎であると小夜子が言い、その夫を見る目は正にカエルを見る蛇の目だった。

復讐劇は続くのだと思わせる終わり方はスリラー映画らしくて悪くなかった。

哀川翔版も、柴咲コウ版も、子供たちが一体どうやってさらわれるのかなどの細部が語られないので、モヤモヤが残り、賛否が分かれる作品だと思う。

ただし、前述したとおり、黒沢監督がつくりだす、不穏な空気と緊張感は面白く、2時間の上映時間はあっという間。

ヒットはしないと思うが・・・。

ちなみに哀川翔版の「蛇の道」には「蜘蛛の瞳」という続編がある。
娘の復讐を果たした新島のその後が描かれる。

「蜘蛛の瞳」での新島は古い友人の誘いで依頼殺人を行うようになる。
こちらもストーリーは意味不明だが、空気感だけは凄い。

「蛇の道」が気に入った人は、是非、「蜘蛛の瞳」も観て欲しい。

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