ネタバレ注意!『ルックバック』映画レビューと原作漫画の魅力徹底解説

公開中のアニメ映画「ルックバック」を公開初日に鑑賞。
本作は「少年ジャンプ+」で2021年に公開された短編的な漫画が原作となっている。

「少年ジャンプ+」は少年ジャンプのインターネットサイト。
公開当時、漫画家が絶賛する漫画として話題となったらしい。

漫画「ルックバック」の作者は「チェーンソーマン」で有名な藤本タツキ。

映画版の監督・脚本・キャラクターデザインを務めるのは押山清高。
押山氏はアニメファンの間では有名なクリエーターらしい。

「ルックバック」は「チェーンソーマン」のようなアクション漫画ではなく、4コマ漫画の製作に没入する二人の少女「藤野」と「京本」の物語。

原作漫画が460円と安かったのでアマゾンで電子書籍を購入し、映画版を鑑賞する前に読んでみた。

奇抜なストーリーでもないのに、1話から「ルックバック」の世界に引きずり込まれた。
そして意味不明の涙が出てくる。

自信過剰で負けず嫌いの藤野に自分を見るのか。
それとも周囲の意見も聞かず、絵を描くことに没入する少女への感動か。

凄いものを見てしまった。
読んだ後、妙な放心状態になってしまった。

まるで映画化を前提として作られたかのうのような漫画。
いずれ実写化もされると思う。

前述したとおり、私は原作を読了後に映画版を鑑賞。
映画版は原作を忠実に、かつ、完璧に再現していた。
それ故に、映画版は原作を超えていたとも言える。

原作ファンを裏切ることなく、少なくとも私は動く「ルックバック」を観れたという感動につつまれた。

あらすじは次のとおり。

【あらすじ】

小学四年生の少女「藤野」は、学年新聞の4コマ漫画を担当。
藤野の4コマ漫画は大人気で、学校のみならず、町中の噂でもあった。

ある日、藤野の同級生で不登校になっている少女「京本」も4コマ漫画を連載することとなる。

藤野は先生に、不登校の児童に漫画が描けるわけないと言い放つ。
ところが、京本が描いた4コマ漫画の絵は藤野とケタ違いの画力であった。

ただし、京本の漫画は風景を4つ描いただけのものでオチもなく、漫画になっていなかった。
それでも藤野は悔しくて、その日から絵画の参考書を買いまくり、ひたすら絵を描きまくる日々を続けた。
それは家族や、周囲の友人が心配して声をかけるほど異常な取り組みであった。

しかし、どうしても京本の絵の上手さに追いつけないことを実感した藤野は、ついに絵を描くことをやめてしまう。

小学校の卒業式の日に藤野は先生から不登校中の京本の家に卒業証書を届けるよう依頼される。

仕方なく藤野は京本の家に行く。
誰もいない様子であったが、玄関の扉に鍵がかかっていなかったので、藤野は扉を開けて入っていく。

京本の部屋の前には山のように積まれたスケッチブックが置いてあり、その上に4コマ漫画用の白紙の紙があった。

藤野はそこに不登校の京本を揶揄する4コマ漫画を描く。
その4コマ漫画は風で飛ばされて京本がいる部屋の扉の下の隙間から中に入ってしまう。

ヤバいと思って藤野は家の外に逃げる。
しかし、その漫画を見た京本は外に飛び出し、藤野を呼び止める。

なんと京本は藤野の大ファンだった。
そして京本は藤野に何故漫画をやめたのかを問う。

藤野は漫画の賞を獲得するための準備をしていたなどと強がってウソをつく。
しかし、内心うれしくて仕方なく、雨の中をはしゃいで家路につく。

家に着いたとたんに漫画を描き出す藤野。
いつしか京本は藤野が描いた漫画の背景を担当し、藤野の部屋に常駐していく。

二人が描いた漫画は漫画雑誌のコンテストで入賞し、100万円を獲得。
その後も漫画を描き続け、ついに連載の依頼がくる。

しかし、京本は美術の大学に行きたいので連載は手伝えないと言い出す。
突然の京本の告白に対し、反対する藤野であったが、京本は頑張って美大に合格し、藤野は売れっ子の漫画家になっていく。

ある日、プロ漫画家になった藤野の下に衝撃的なニュースが届き、藤野は再び漫画が描けなくなってしまうのだった・・・。

【ネタバレレビュー】

私は映画鑑賞前に原作漫画を読んだのだが、読む直前、「ルックバック」というタイトルに疑問を持った。

「Look back」は直訳すれば「振り返れ」。
少年漫画のタイトルならば「Don’t look back」(振り返るな)の方がよさそう。

実際、原作漫画の最初のコマの右上に小さく「Don’t」という文字がある。
また、原作の最後のコマの左下に置かれている本のタイトルの一部が「In Anger」となっている。

繋げると「Don’t look back in anger」となり、「怒りに任せて振り返るな」といった意味になる。

「Don’t look back in anger」は、イギリスのロックバンド「オアシス(Oasis)」の曲の題名。

イギリスで起こったテロ事件の追悼集会で集まった中の一人の女性が突然「Don’t look back in anger」を歌い始め、大合唱になったことでも有名。

この「Don’t look back in anger」を漫画に隠し入れたのは、後述するように、「ルックバック」が京都アニメーション放火事件への鎮魂の意味も含んでいるからだと多くの人が指摘している。

ちなみに「ルックバック」の中で京本が異常者に殺される日が「2016年1月10日」になっているが、これはイギリスのミュージシャン・俳優の「デヴィッド・ボウイ」の死んだ日で、デヴィッド・ボウイは「Look back in anger」という曲を歌っている。

しかも「Look back in anger」のPVでデヴィッド・ボウイは絵を描いている。

以上のことから、「ルックバック」という作品の中に「振り返る(な)」というメッセージが少なからずあるわけだが、決してメインテーマではない。

特に映画版「ルックバック」では、「Don’t」も「In Anger」の描写はなかった。(はず。)

やはり本作のテーマは「背中」である。
「back」は「背中」という意味もあり、「Look back」は「背中を見ろ」ともとらえることができる。

劇中でも最後に出てくる四コマ漫画(藤野が京本を助ける漫画)のタイトルは「背中を見て」になっている。

小学生の頃の藤野は京本の画力に驚嘆し、京本の「背中」を追いかけるかのように努力を重ねるようになる。

それは京本も同じ。
互いに互いの背中を追いかけて成長していた藤野と京本。

人は無意識のうちに誰かの背中を追いかけている。
そして自分の背中もまた誰かに見られていて、そのことで勇気づけられて前に進んでいく。

「ルックバック」の中でも小学生の頃に挫折した藤野は京本が自分の背中を見ていたことを知り、力を取り戻していく。

京本が死に、再び心が折れる藤野。

藤野は死んだ京本の部屋に入る前、京本が死んだのは自分のせいだと思い始め、ついに「なんで描いたんだろ・・・。描いても何も役に立たないのに・・・」とつぶやく。

京本の部屋に入ると、実は袂を分けた後も京本が藤野の背中を見ていたことを藤野は知る。

本棚には藤野の漫画が並び、そして、かつて藤野が小学生の頃にサインしたハンテンが壁にかかっている。

そのサインは「藤野歩」となっている。(作中で初めて藤野の名前が「歩」であることが観客に分かる。)

藤野は背中に自分のサインが描かれたハンテンの「背中」を見て、また「歩」み始める。

上手い。
やられた。

ちなみに映画「ルックバック」のサイトに原作者と監督のコメントがあるが、原作の藤本タツキ先生は押山監督のことを「バケモノアニメーター」と呼び、押山監督は藤本先生のことを「バケモノ漫画家」と呼んでいる。
「ルックバック」的には、二人とも互いに背中を見ている関係のようで、これも面白い。

【京都アニメーション放火事件】

「藤野」と「京本」の名前が原作者の藤本タツキ先生の名前からきていることは容易に想像がつく。

そして恐らく京本の「京」は「京都アニメーション放火事件」を暗示しているのだろう。

「京都アニメーション放火事件」では、「ルックバック」で描かれた異常者と同じく、自分のアイデアを京アニ側が盗用したと思い込んだ男がガソリンを撒いて火を放ち、36名もの人が亡くなった。

「京都アニメーション放火事件」が起こったのが2019年の7月18日。
漫画「ルックバック」の発表が2021年7月19日。

日付から見ても藤本タツキ先生が、この事件に関して相当に心を痛め、「ルックバック」に鎮魂の思いを込めたことが伝わる。

ちなみに、映画鑑賞者に対し、入場者特典として原作漫画の下書きのような単行本をもらえるが、こちらでは主人公の名前は藤野が「三船」、京本が「野々瀬」になっていた。

【パラレルワールド?】

死んだ京本の家に藤野が訪ねるところで、京本が藤野と漫画を描かず、殺されもしない世界が描かれる。

そして京本が描いた4コマ漫画「背中を見ろ」が藤野の手元に届く。

一見、京本が死なないパラレルワールドからやってきた4コマ漫画のようにも思える。

しかし、藤野が見ていた4コマ漫画「背中を見ろ」は実際は白紙。
その白紙に藤野は京本が描いた4コマ漫画を頭の中だけで見ていたのだ。

映画版でも原作漫画でもラストに藤野の職場の窓に4コマ漫画の紙が貼られるが、何も描かれていない。

最近流行のパラレルワールド・マルチバースなんていう薄っぺらな物語ではない。
少なくとも私はそう信じたい。

なお、既にご存じだと思うが、京本が生きていた世界の物語は映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のオマージュ。

映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』においては、現実には惨殺された女優シャロン・テートが映画の中では助かるという物語。

映画版にはなかったと思うが、原作版の最後のコマの中に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のパッケージが描かれている。

どうやら他にも映画からのオマージュやパロディがあるらしいので、そこを探すのも楽しい作品になっている。

とにかく「ルックバック」は、あらゆる人にあらゆる何かを感じさせる傑作。
かつての角川映画ではないが、「読んでから観るか、観てから読むか」どちらからでも楽しめる。

漫画と映画のどちらか一つはありえない。
漫画も映画もどちらも観るべし。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です