【ネタバレあり】映画『おいしくて泣くとき』原作ファンが語る残念な改悪ポイント5選

今週から公開の映画「おいしくて泣くとき」を鑑賞。
本作は森沢明夫の同名の小説が原作。

鑑賞直前に原作小説を読了。
国語の教科書に載るようなベタな感動物語。

ベタなんだけど、小説を読みながら何度も泣いてしまった。
映画版の配給は松竹なのだが、メジャー会社が映画化したくなるストーリー。

父親が貧しい子供に対して食事を提供するボランティアをしていることで「偽善者のムスコ」としていじめられる心也と義父がDVで苦しむ夕花の物語。

小説版では感動したのに、映画版では全く心動かされず。
これは原作小説の改悪が原因。

これまで鑑賞前後に原作小説を読んで両者を比較してきたが、今までで一番の改悪。

もちろん小説を映画化するには、どうしても省略や改変はつきもの。
省略・改変しても素晴らしいと思える映画は多くある。

今回の場合は失敗ではないかと思う。

改悪部分も含めて、原作小説との主な違いは次のとおり。

①過去と現在の物語の構成
映画版は大人の心也がカフェを経営しているところから始まり、学生の頃に別れた夕花の居場所を夕花の義弟の幸太から聞いているところから始まる。

一方、原作小説は心也と夕花の学生時代の物語と心也が大人になってカフェを経営している物語を別の時代の話と分からないように進めていき、最後に二つの物語をつなげていく展開にしている。

小説では大人の心也の物語は、心也の妻である「ゆり子」の視点で描かれ、心也は「マスター」と表現され、マスターが心也であることが分からないようになっている。(勘の鋭い人は分かるのだろうけど。)

小説と違って映画は別の時代を描いていることを分からないように表現するのが難しいし、観客が混乱してしまうのを避けたかったのだとは思うが、原作の面白さの一つが大きく削がれたのは間違いない。

②心也と夕花の別れ
映画版の心也と夕花の学生時代の別れは、駅のホームで複数の警察がきて無理やり連行されるという劇的なシーンになっていた。

一方、小説版では、あっさりと別れて、その後、数十年会えなくなる。
映画版のように「俺たちまた会える!約束するから!」などと叫ぶシーンも全くない。

小説版の方が趣きがあってリアル。

映画版は警察が、いきなり強引に二人を引きはがし、夕花を連行していたが、犯罪を犯しているわけでもないのに、実際の警察が強制連行することはないだろう。

ちなみに、映画版では当初から心也は夕花に惚れている描写になっていて、「好きだ!」と告白したり、抱き合ったり、遂には夕花が寝ている心也の頬にキスをしていたが、原作小説の二人はミニ家出のときに手をつないだり、帰りの電車で夕花が寝たふりをして心也に寄りかかる箇所はあるものの、微妙な関係のまま別れていく。

③夕花の記憶喪失
映画版の夕花は引っ越した先に義父が現れて、頭をはたかれた勢いで頭をぶつけて記憶喪失になる。

小説の夕花は記憶喪失になることはなく、引っ越し後は人生が好転していく。
そして夕花は、それを心也がくれた四葉のクローバーのお守り(しおり)のおかげだと思っている。

物語的には「記憶喪失」ってのは劇的になるが、そこにリアリティはない。
子供だましというか、白けてしまうというか、はっきりいって失笑を禁じ得ない。

少し頭をぶつけたくらいで人間は記憶喪失にはならない。
少なくとも私は、そのような人に会ったことはない。

④心也と夕花の年齢
映画版の心也と夕花は高校一年生という設定だが、原作小説では中学三年生。
たった一年の違いではあるが、中学生と高校生では印象が大きく違う。

特に心也と夕花の二人のミニ家出の空気感が違う。

中学生だと「少年少女の冒険」という感じが出るが、高校生だと冒険感が薄まってしまう。

⑤桜の木のエピソード
原作小説では「桜の木」が過去と現在の物語に重要な役割を果たす。
心也の亡くなった母が心也が生まれたときの記念樹として、店の前に桜の木を植える。

原作小説、映画ともに、大人になった心也が経営するカフェに車が突っ込んでくるエピソードがあるが、原作小説は桜の木が心也を守る。

更に倒れた桜の木を使って、夕花の義弟「幸太」がレジ台を作ってくれる。(原作小説での幸太は夕花が経営する工務店の職人になっている。)

また、心也と夕花が幼かった頃、桜の木になった「さくらんぼ」を二人で食べている。

映画版では桜の木の話は一切出てこない。

もちろん上記の5つ以外にも多くの違いはある。

はっきり言って個人的には原作小説の方が面白かった。
映画を観た方は、是非、原作小説も読んでいただければと思う。

“【ネタバレあり】映画『おいしくて泣くとき』原作ファンが語る残念な改悪ポイント5選” への2件の返信

  1. 私も原作を読んで感動し、映画を楽しみにしていて、観たのですが、なんか違和感を感じ、虚しさでいっぱいのまま映画館を後にしました。
    まさにご指摘のとおりです。あんなふうに脚色する必要あるのでしょうか。
    森沢明夫先生は、どのように感じてらっしゃるのでしょう。
    オリジナル脚本の片思い世界のほうがよっぽど感動しました。

    1. コメントありがとうございます!
      確かに原作の著者がどう感じているのか聞いてみたいですよね。

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