『死に損なった男』ネタバレ感想|笑いと涙の先にある「生きる苦しさ」
映画「死に損なった男」を公開から二日目に鑑賞。
幽霊に憑りつかれた男の物語。
あらすじは次のとおり。
お笑い芸人のネタを書いている構成作家の関谷一平。
一平は駅で飛び込み自殺を図ったものの、前の駅の線路内で人が電車に轢かれる事故があり電車が遅れたため、自殺を思いとどまる。
一平はネットで前の駅で亡くなった人を調べ、知人でもないのに、その人の葬式に参列。
帰宅すると、亡くなった人の幽霊が一平の前に現れ、DVで別れた娘の元夫を殺せと命じる。
元夫を殺さないと幽霊は消えないというため、仕方なく一平は幽霊とともに娘の元夫を殺しに行くのだった…。
主演はお笑い芸人「空気階段」の水川かたまり。
監督&脚本は田中征爾。
前半はコメディタッチで描かれるが、後半は徐々にシリアスなムードになっていき、私は不覚にも涙を流してしまった。
個人的な評価としては「B+」。
もう少しスピード感があれば「A」にしたかも。
<ここからネタバレレビュー>
感動の涙を流したのは次の二つのシーン。
一つ目は幽霊と一平の二人が作った葬式のコントを若手芸人が披露するシーン。
そのコントの葬式は幽霊の愛する妻が亡くなったときの葬式に基づいて作られている。
いかに幽霊が妻を愛していたかが感じられて、このコントに笑い泣きしてしまった。
二つ目は入院した一平のところに一平の後輩構成作家の沢本が見舞いに来るシーン。
映画の途中で沢本も一平と同じく幽霊が見えることが判明するのだが、その理由が、このシーンで分かる。
実は、あのとき沢本も一平と同じ駅で自殺をしようと考えていた「死に損なった男」だった。
一平の自殺理由は「夢がかなった先に何もなかった」というものだった。
恐らく一平よりも早く売れっ子になった沢本も同じだったのだろう。
夢が叶っても、叶わなくても、誰もが皆、人生は苦しく、ときに虚しさに襲われて死にたくなる。
しかし、そのほとんどの人は苦しさを見せずに生きる。
映画内でも一平が沢本に苦しくなったら頼ってくれと言っても、そんな状況にないと沢本は強がる。
この沢本の言葉を聞いた一平と観客は、そうか苦しいのは自分だけではなかったのだと思い知らされる。
楽しそうに見えるあの人も、実は苦しい。
生きることは苦しい。
つい、人は苦しんでいるのは自分だけだと無意識に思い込んでしまう。
自分だけが苦しいのではないと分かれば、その分だけ人にやさしくなれそうだ。
幽霊が成仏せずに、一平とともに楽しそうにコント作りをするところで終わるラストも面白い。
一平の夢は構成作家になることではなく、「笑いのネタ」を作ることであり、実は一平は仕事をするたびに夢を叶えていたのだ。
ラストの幽霊との楽しそうなコントづくりのシーンは、このことに一平が気づいたように私には感じられた。
スケールが大きい映画ではないが、よい映画を観たという鑑賞後感。
監督の田中 征爾は弱冠37歳。
田中監督の次の作品も必ず観ることにしよう。