映画『敵』ネタバレ感想!淡々とした日常から迫りくる死まで、欲望と後悔を描いたモノクロの名作
公開中の映画「敵」を鑑賞。
公開館数が少ない、いわゆる単館系映画。
「時をかける少女」で有名な筒井康隆が1998年に発表した同名の小説が原作。
監督は吉田大八。
主演は長塚京三。
本作は東京国際映画祭で最優秀男優賞、最優秀監督賞を受賞。
アジア・フィルム・アワード6部門でノミネートされている。
個人的な評価としては「Aー」。
主人公は元大学教授の渡辺儀助(ぎすけ)。
儀助は妻に先立たれ、古民家でひっそりと暮らしている。
ときどき教え子が訪ねてきたりする。
また、雑誌にコラム連載をしているらしく、出版社の職員も訪ねてくる。
映画の前半は2023年に公開の傑作映画「PERFECT DAYS」(主演:役所広司)を彷彿させ、儀助の淡々として、つつましやかな暮らしぶりが描写される。
後半は儀助の心の中の欲望と後悔が儀助の妄想や夢として描かれていく。
こう書くと、後半の方が面白そうに感じるだろうが、実は前半も面白い。
単に一人の男が生きる様子を描写しているだけなのだが、ずっと集中して観ていられるから不思議。
後半の妄想も面白い。
死んだ妻に会いたい。
美しい教え子を犯してしまいたい。
これらの欲望と同時に妻を連れてパリに行けなかったこと、教え子に欲情してしまった自分への後悔と恥が入り交じり、妄想の世界が現れてくる。
これらの「敵」の中の最大の「敵」は迫りくる「死」。
退職して静かに暮らす老人も、実は多くのものと戦っているという物語。
誰もが「欲望」と「後悔」と「死」と戦うことは必然なのだが、実は老境に入ると、逆にこれらが強まっていくのかもしれない。
ちなみに本作は全編モノクロ。
観ると何かがひっかかる作品。
気になる方はご鑑賞あれ。