映画『悪い夏』ネタバレ解説|映画と原作の改変ポイント4つを比較!

映画「悪い夏」を公開初日に鑑賞。

本作は生活保護の受給審査を担当する若い公務員「佐々木守」がヤクザに弱味を握られ、不正受給に荷担させられていくという物語。

主演は北村匠海。
監督は城定秀夫(じょうじょうひでお)。

染井為人が書いた同名の小説が原作。
小説は2017年に第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞している。

私は映画を観る数日前に原作小説を読了。

映画のキャッチコピーの「クズとワルしか出てこない」は伊達ではなく、読んでいて気分が悪くなり、途中で読むのを止めようかと思ったくらい。

しかし、最後はハッピーエンドで終わると思って原作小説を読み進めたが、バッドエンド終わり。

唯一の救いは全員が地獄に落ちるところか。

原作と映画を比較すると、当然ではあるが、改変や省略はある。
もちろん大筋は同じであり、上手く2時間にまとめあげているという感じ。

原作ファンでも納得の仕上がりだったと感じた。
実際、原作を読んだ直後に映画を鑑賞したにも関わらず、満足度は高い。

個人的な評価としては「B+」。
カタルシスはないが、刺さる人には刺さる作品かも。

ただし、細かい部分で映画の方が若干柔らかくなるよう改変している。

今回は映画版の改変部分を4つ紹介したい。

<ここからネタバレ>

① 佐々木が愛美に惚れるシーン
佐々木守が林野愛美(河合優実)の娘である美空にクレヨンを買い与えるシーンで、映画版では隠れていた山田(竹原ピストル)が音をたててしまい、それをごまかすように愛美が佐々木の手を握る。

一方、原作小説では愛美は手を握るのではなく、佐々木の体に抱きつく。
それは佐々木が愛美を意識し、恋に落ちた瞬間でもあった。

それを隠れていた場所から覗き見ていた山田は、佐々木の恋心を利用することを思いつく。

細かい違いではあるものの、ここは佐々木が闇落ちする切っ掛けとなったシーンなので紹介しておく。

② 佐々木が狂う経緯
佐々木は愛美に騙されたことを契機に精神が狂っていくが、小説版は麻薬が絡んでくる。

佐々木と愛美のセックスシーンの盗撮を山田は企むも、原作小説での佐々木は性的不能者(いわゆる「インポ」)。

そこで、こっそりと山田が普段売りさばいているMDMAをバイアグラだと言って佐々木に何度も飲ませて愛美とセックスさせる。

また、愛美に騙され、金本(窪田正孝)の手下となって闇落ちした後の佐々木は金本の勧めで覚せい剤にも手を出して狂っていく。

ラストに佐々木は精神が狂って愛美を包丁で刺そうとするが、原作小説の方が薬の力で更に狂っている。

③ 古川佳澄親子の自殺
生活に困窮していた古川佳澄(木南晴夏)親子は、生活保護を受けるために役所に行くも、佐々木の冷酷な言葉によって古川親子は無理心中をしてしまう。

ここは原作も映画も経緯は同じだが、映画版では「意識不明の重体」で、小説では死亡が確定している。

先ほど述べたが、映画の方が若干マイルドになるよう改変している。

④ ラストのドタバタ後の世界の描写
物語の最後に、愛美の部屋で佐々木が包丁を持って愛美を刺そうとするところから始まって、ほとんど全ての登場人物が愛美の部屋に偶然にも集まり、メチャクチャになって終わっていく。

終わり方は原作も映画も、ほぼ同じ。
ただし、その後が大きく違う。

映画版では、その後の世界が描かれ、金本たちの悪事は暴かれ、佐々木は清掃の仕事に就いて、アパートで家族で暮らしている様子で終わる。

一方、原作は何年後か分からない生活保護を受けている佐々木の様子が少しだけ描かれるだけ。

つまり原作の方が断然にバッドエンド感がある。
ここも映画版の方がマイルドにしているところ。

ちなみに染井為人の小説「正体」も昨年に映画化されていて、これも原作はバッドエンドなのに、映画はハッピーエンド。

「正体」も、「悪い夏」も、どちらも原作を読んだ私からすると、映画も原作に沿ってバッドエンドにした方が映画的な趣きが残るような気がする。

嫌な気分になる客も多くなる可能性は高まるだろうが。

いずれにしろ映画でも原作小説でも、最後のドタバタ惨劇がクライマックスシーンで、見応え、読み応えバッチリ。

原作小説の「あとがき」に「悲劇と喜劇」と題して、「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」とするチャールズ・チャップリンの言葉を引用している。

恐らく書いた染井も、観てる観客も、ラストのドタバタは、ほとんど喜劇だ。
ここを面白がれるかどうかも、本作の評価の分かれ道。

小説を面白いと感じた方は、映画も面白いと感じるはずなので、ご鑑賞あれ。

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