映画『果てしなきスカーレット』レビュー|細田守の“偽善”が招いた大失敗作の理由
細田守監督アニメ映画「果てしなきスカーレット」を公開から二日目に鑑賞。
王女スカーレットの復讐の物語。
以下、簡単なネタバレあらすじ。
<ネタバレあらすじ>
スカーレットの父アムレットは対話で平和を保とうとする心優しき国王。
一方、国王の弟のクローディアスは権力欲が強く、武力で隣国を制圧しようとする冷酷非道な男。
ある日、クローディアスは兄アムレット王に反逆の濡れ衣を着せて処刑し、自身が国王となる。
スカーレットは復讐のため、クローディアスを毒殺しようとするが、逆に毒を飲まされてしまう。
スカーレットは気が付くと死者の国にいた。
何故か死者の国にもクローディアスが王として君臨しており、再びスカーレットは復讐を始めていく。
復讐の旅の途中、スカーレットは父が処刑される直前に「(弟を)許せ」とつぶやいたことを知るのだった。
<非現実的で偽善な「赦し」>
本作を一言で表すなら「ザ・偽善」。
小学校の道徳の授業のようなお話。
「復讐は何も生みださない」といいたいのだろうけど、そんな薄っぺらぺらなことを言われても、現実世界に生きている我々には一切響かない。
事実、どの映画サイトの評価も5点満点で3点未満という有り様。
逆をやるべきだった。
(戦後の日本が掲げてきた)平和主義という偽善が、逆に国を滅ぼしていく。
そのような作品にすべきだった。
具体的に言えば、スカーレットと父アムレット王は日頃から対話と軍縮の必要性を国民に唱えていたが、その結果、隣国に攻め込まれてアムレット王が殺されるとともに多くの国民が死に、奴隷と化してしまう。
平時には平和主義を唱えていたにも関わらず、スカーレットは父の弟クローディアスとともに隣国に報復を計画するも、時すでに遅しで、全く計画は実らずに殺されて死者の国にスカーレットは行ってしまう。
その死者の国で死んだ父アムレットとスカーレットは出会い、多くの民を死なせた復讐のために父を殺す。
復讐を果たしたが、心は満たされず、虚しいまま死者の国を果てしなくスカーレットはさまよっていく。
こういったストーリーにすれば、リアリティを持って観客の心を動かすかと思う。
ウクライナだって、核を捨てなければロシアに攻め込まれなかったかもしれない。
日本で言えば、周辺国である中国、ロシア、北朝鮮に「対話」など通用するわけもない。
逆説のように聞こえるが、軍備を増強するということは、戦争を抑止するための最良の手段なのである。
戦争が起こる最大の原因は、敵国に「こいつと戦っても勝てそうだ。」と思われることである。
これは国内の犯罪にも言える。
警察は拳銃を持ち、警棒を持ち、逮捕し、監禁する行為を行う組織なのだから、実は暴力集団なのだ。
しかし、この聖なる暴力権限が警察にあるからこそ、犯罪が抑止されている。
本作は国同士の争いよりも、個人の復讐を中心に描いているわけだが、これだって同じなのだ。
復讐は復讐の連鎖を産む可能性も確かにあるが、復讐が果たされないことも混乱を産むだけなのだ。
本作では「赦し」という言葉を使って、敵をも愛する精神である「アガペー」を説く。
しかし、アガペーとは、エロース(恋愛、性愛)、フィリア(友情、隣人愛)を超えた神の愛のことであり、ほとんどの人間には到達不可能な精神のことである。
そんなアガペーの精神を押し付けてくる本作に観客は「偽善」を感じてしまい、作品の世界に入っていけず、結果として評価が低くなってしまっているのだと思う。
私は細田守に聞きたい。
あなたは愛する人を殺されても、許せるのですか?
<細田脚本をやめろ>
これは前々から多くの人に指摘されていることだが、細田守監督の作品は細田守自身が脚本をやり始めてからつまらなくなった。
これだけ多くの人に指摘されながらも、今回の作品の原作・脚本は細田守が担当している。
もしかしたら意地になっているのかもしれない。
そうだとするならば、配給会社である東宝とソニー・ピクチャーズエンタテインメントは作品をプロデュースする側として、きちんと「あなたの脚本では映画は作らせません。」と言うべきだった。
今回の「果てしなきスカーレット」は、失敗の部類に入る作品であると考えているが、この責任は監督だけでなく、配給会社にもあると思う。
そもそも細田監督は「演出の人」なのだ。
これはオタキングの岡田斗司夫氏がYoutube番組で数年前に指摘していたことなのだが、これを聞いて私はメチャクチャ同意したのを覚えている。
細田監督作品の各シーンの描き方は天才的に上手いと思うし、迫力があることは認める。
それにも関わらず、多くの観客が作品の世界に入っていけないのは、細田氏の人生観・世界観が薄い若しくはズレているからなのだと思う。
私は本作を地方のTOHOシネマズで鑑賞したが、泣けてくるほどガラガラ。
劇場側は客が入ると期待して、大きいスクリーンを二つも使って、1日10回以上も上映していたが、大外れ。
恐らく「果てしなきスカーレット」と同日に公開された「TOKYOタクシー」の方が興行収入は上にランクされるだろう。
「TOKYOタクシー」はホームドラマなので、10億円も稼げばヒットと言えるだろう。
しかし、「果てしなきスカーレット」の場合は10億円だと大赤字。
あのガラガラ感からすると、もしかしたら10億いかないかも。
恐ろしい・・・。
今の細田守に必要なものは新技術ではなく、“世界と向き合う覚悟”だ。
それを取り戻すまで、彼の作品は迷い続けるだろう。