映画『バービー』ネタバレ解説:仮想の幸福からの現実への冒険
本作はバービー人形のバービーの映画だが、子供向けの映画ではない。
映画の冒頭、バービー人形が、いかに革新的であったかの描写から始まる。
バービー誕生以前の少女たちは「赤ちゃん」の人形で遊んでいた。
しかし、バービーが誕生すると、子供たちは赤ちゃんの人形を叩きつけて壊し始める。
完全にスタンリー・キューブリック監督作品「2001年宇宙の旅」のオマージュ。
思わずニンマリ。
主人公の定番型バービーは、バービーランドで完璧に幸せな生活を送る。
バービーランドには、これまでに現実世界で作られた様々なバービーが活躍する。
黒人のバービー、アジア人のバービー、太っちょバービー。
全ての名前はバービー。
そして多くのバービーが街の要職についている。
バービーランドにはボーイフレンドであるケンもいる。
こちらも様々なタイプがいて、全て名前はケン。
違うのは男たちが全てバービーの引き立て役であること。
ある日、突然、定番型のバービーは死について考え始める。
するとハイヒールを履くために伸びていたつま先が曲がり、踵が地面についてしまう。
驚いた定番型バービーは町はずれに住むヘンテコバービーに相談に行く。
ヘンテコバービーによると現実世界の持ち主の影響が原因だという。
バービーは人間世界に行くことを決心する。
そして何故かケンも一緒に行くこととなる。
バービーとケンが初めて見る現実の人間社会は、バービーランドとは何もかもが違っていた。
そこには生老病死などの苦難があった。
そして何より男たちが支配する社会であった。
ゲンナリするバービーと逆に何かに目覚めるケン。
なんとかバービーは自分に影響を与えた女性を見つける。
その女性はバービーを作っているマテル社の社員であった。
その社員が何気に死を思うバービーを紙にデザインしていたのだった。
一方、バービーが人間社会にもぐりこんできたことを知ったマテル社の幹部たちは、バービーたちを捕まえてバービーランドに戻そうと奔走する。(ちなみにマテル社の幹部たちは全員が男性。)
バービーがバービーランドに戻ると、先に帰っていたケンにより男社会に変わっていた。
定番型バービーは、すっかり男社会に洗脳されたバービーたちを一人一人捕まえて、洗脳を解いていく。
遂に元のバービーランドを取り戻すバービーたち。
しかし、定番型バービーはハイヒールを脱ぎ捨て、人間社会で生きていくことを決心していくところで映画は終わる。
基本的には、おバカなコメディ映画なのだが、なかなか深い。
定番型バービーが、あえて苦難が待ち受けている現実の人間社会で生きていくことを選択するところから、現在上映中の宮崎駿監督作品「君たちはどう生きるか」とテーマが同一であることが分かる。
インターネットを筆頭に、進化していくテクノロジーの影響で、バーチャルな空間が広がり、そこに引きこもっていく人々。
そんな都合のいい仮想空間や、コンフォートゾーン(ストレスのない居心地の良い環境)を抜け出し、苦しい現実と格闘して生きるべきだ!
本作品と宮崎作品は、そう訴えかけてくる。
小学生以下の子供と観るような映画ではないが、中学生以上だったら、家族で観ても楽しいかも。
是非鑑賞後に子供へ「どうしてバービーは現実の人間社会で生きていくことを選んだのだと思う?」と問いかけて欲しい。
そして「君たちはどう生きるか」より100倍面白いので、どちらを観るか迷っているなら「バービー」をお勧めします。