映画「夜明けのすべて」ネタバレ含む感想・解説:愛の物語と精神障害の真実

映画「夜明けのすべて」を公開初日に鑑賞。
主演は上白石萌音と松村北斗。

瀬尾まいこの同名小説が原作。
監督は三宅昌。

月経前症候群(PMS)とパニック障害という精神障害を背負った二人の物語。
恋愛物語ではない愛の物語。

以下、ネタバレあらすじ。

重い月経前症候群(PMS)である藤沢美紗(上白石萌音)。
月経前症候群により生理前になると感情のコントロールができなくなり、美紗は怒りが爆発してしまう。

そのため、美紗は転職を繰り返すこととなる。
最初の会社を辞めてから5年後、美紗は「栗田科学」という小さな会社で働いていた。

栗田科学では子供向けの室内プラネタリウムや顕微鏡を販売していた。
ある日、生理前であった美紗は会社の後輩である山添(松村北斗)の、やる気のない態度を見てブチ切れてしまう。

後日、社内の大掃除をしている際、美紗は床に薬を見つける。
その薬は美紗が以前飲んでいた薬であった。

美紗が不思議がっていると、山添が発作を起こして苦しみだす。
それを見た美紗は、薬が山添のものであると直感し、山添に薬を飲ませる。

山添はパニック障害であった。

2年ほど前にパニック障害を発症した山添は、以来、電車に乗ることができなくなっていた。

そのため、当時働いていた会社の上司の紹介により、自宅アパートから歩いて通える場所にあった栗田科学に山添は就職したのだった。

栗田科学の仕事に興味がなく、また、自分の精神障害を悲観していた山添は生きる気力を失い欠けていた。

山添の病気を知った美紗は、山添に親近感を覚え始める。
ある日、だらしなく伸びた山添の髪を自分で切ろうとしたところに美紗が現れる。

そこで美紗が切ることとなるが、失敗。
焦る美紗であったが、自分の髪を見て大爆笑する山添であった。

このことを契機に徐々に打ち解けあっていく二人。

山添は通院している病院の先生から月経前症候群の本を数冊借りて勉強し、美紗が発症するとサポートするようになっていった。

そのころ栗田科学では商業用のプラネタリウム映写機をドーム型テントで上映するイベントを企画していた。

イベントでのナレーション作りに悩む山添。
ありきたりなセリフしか思いつかないところ、30年ほど前に同じイベントを開催したときのテープとメモが見つかる。

それは栗田科学の社長の亡くなった弟が残したものであった。
この弟が残したナレーションのラストには次のような言葉が残されていた。

西洋では「夜明け前が一番暗い」という。
人間は夜明けに希望を持つが、夜がなければ人は宇宙の広大さを知ることはなかったであろう。

イベントは成功に終わった。

いつしか山添は栗田科学の仕事にやりがいを感じ始め、当初着ていなかった会社のユニフォームを身に着けるようになっていた。

一方、美紗は体が不自由になってしまった母親の面倒を見るため、実家から通える職場に転職をするため、就職活動を始める。

美紗と山添が新たなるスタートを切っていくところで映画は終わる。

美紗と山添の精神障害はストレスやトラウマが原因ではなく、突然発症するらしい。
そして完治には長期の時間を要する。

映画の前半、二人とも自分の病気により人生に絶望するも、周囲の理解により、最後には自分の病気を宿痾・宿命として受け入れていく。

また、美紗と山添の間に恋愛感情はなく、最後には別々の職場で働くことになるが、ハッピーエンドとして描かれていて鑑賞後感がいい。

いわゆる「余韻たなびく映画」。

この映画のキーセンテンスである「夜明け前が一番暗い」という言葉はイギリスの諺で、どうやらシェイクスピアの「マクベス」に出てくるらしい。

「The darkest hour is always just before the dawn.」の和約が「夜明け前が一番暗い」。
終わりかけの時期が最も苦しいという意味。

映画内の美紗と山添は夜明け前の最も暗い時期を生きる。
しかし、夜の存在により人が宇宙を知ったように、二人も精神障害という重い闇を背負ったことにより真の人間世界を知っていく。

つまり、生きる苦しみの中にこそ世界を知る手がかりがある。
逆に言えば、苦しみのない人生は真に生きたことにはならない。

これが本作のメッセージであり、単なる病気の紹介映画ではない。

人は誰でも生きづらさや、辛さを抱えて生きているわけだが、本作は人生の苦しみに意義を与えてくれる。

各種映画レビューサイトの評価も4点越えが多いのも納得。
是非、劇場で鑑賞いただきたい。

作品の内容とは関係ないが、本作は16mmフィルムで撮影したらしい。
確かに室内のシーンや、暗部に大量のノイズが見られた。

フィルム独特の暖かい色の出方を監督が好んだのだと思うが、個人的にはノイズの方が気になるので、次回はデジタルで撮って欲しいと思う。

もう一つ内容と関係のないことを言いたい。
日本中が苦しむ、上白石姉妹の「萌音萌歌問題」が本作の鑑賞により私の中で解決した。

これまでどちらが萌音なのか萌歌か分からず、しかもどちらが姉なのかも判別できなかった。

正解は萌音の方がお姉さん。
「萌音姉(もねねぇ)」と覚えましょう。

どうでもいいですね。。。

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