「52ヘルツのクジラたち」映画レビュー:ネタバレあり!成島監督作品の強引な展開と評価のギャップ

公開中の映画「52ヘルツのクジラたち」を鑑賞。
主演は杉咲花。

監督は成島出(なるしま いずる)。
2021年に本屋大賞を受賞した町田そのこによる同名小説が原作。

タイトルにある「52ヘルツのクジラ」とは、仲間には聞き取れない52ヘルツの声で鳴くクジラのこと。

本作では児童虐待、毒親、トランスジェンダーを抱える人々の苦しみが描かれる。

個人的な評価は3.0点。(5点満点)
脚本が粗くて、映画の世界に入っていけなかった。

以下、ネタバレあらすじ。

<ネタバレ>

東京から逃げるように大分の海辺の街に移住したキコ(杉咲花)。
その街で母親から虐待を受けている少年と出会う。

その少年は虐待の影響で口がきけなかった。
キコも幼いころから母親に暴力を振るわれていたこともあり、その少年をキコの自宅にかくまうようになる。

3年前、キコは実家で義理の父の介護をして疲れ果てていた。
ある日、キコが義父に食事を与えると、上手く食べれず苦しみ、病院に運ばれる。

キコは母と一緒に病院に行くと、医者の前で「お前が病気になればよかったのに!」と母から暴力を受ける。

病院を出たキコは朦朧とした状態で街を歩く。
無意識なのか、意図的なのか、キコは走っているトラックに飛び込んでいく。

そこに一人の男性「安吾(志尊淳)」が現れ、キコを助ける。
安吾と一緒にいた女性はキコの高校時代の友人「美晴」であった。

安吾と美晴はキコの現状を聞き、義父を施設に入れ、キコを家から出られるよう助けていく。

安吾と美晴のサポートにより、一人暮らしを始めたキコは生気を取り戻していく。
キコは安吾に恋心を抱き、安吾に気持ちを聞くと「一生キコの幸せを願っている」とだけ言って、付き合うまでには至らなかった。

ある日、キコが職場の食堂で昼食を取っていると、2名の男性が大喧嘩を始める。
運悪く、喧嘩をしている男性が投げた椅子がキコの頭にあたり、意識を失う。

病院で目が覚めたキコの前にはキコが務めている会社社長の息子で専務の新名(にいな)がいた。

新名はキコに惚れ、キコを高層マンションに住まわせ、二人は付き合うようになる。

ところが新名は取引先の会社社長の娘と結婚することとなる。
それでも新名はキコに愛人として、これからも付き合って欲しいと懇願する。

仕方なくマンションに住み続けるキコであったが、そこに暗い顔をした新名が現れる。
聞くと、新名とキコの関係が周囲にバレて、結婚は取りやめになり、専務という役職もクビになったという。

そして新名とキコの関係をバラしたのは安吾だという。

荒れ狂う新名はキコに暴力を振るうようになっていく。

安吾を憎む新名は、安吾の過去を調査する。
すると安吾が元女性のトランスジェンダー男性だということを知る。

安吾の母親は安吾が男になっていることを知らなかった。
そこで新名は母親を東京に呼び、安吾と会わせるのだった。

ショックを受ける安吾。
当初、安吾の母は男になった安吾を見て驚いたが、受け入れ、一緒に暮らそうと誘う。

一方、新名はキコに安吾がトランスジェンダーだったことを告げて嘲笑する。
それを聞いてキコは安吾のアパートを訪ねると、扉の前で偶然に安吾の母親と出会う。

二人で部屋に入ってみると、安吾は風呂場で自殺していた。

そのことを切っ掛けに、キコは美晴にも告げずに、かつて祖母が住んでいたという大分の海辺の田舎町に引っ越したのだった。

そこでキコは虐待を受けた少年と暮らし始める。
そして、かつて安吾からもらった小型プレーヤーに録音された52ヘルツのクジラの鳴き声を少年と聞くのだった。

そこにキコを心底心配していた美晴がキコの居所を突き止めて、キコを訪ねる。
そこからキコと美晴と少年の3人の生活が始まるが、瞬く間に街の噂になってしまっていた。

このままではキコと美晴は誘拐犯になってしまう。
そのことを知った少年は、ある夜、こっそりと抜け出す。

少年がいないことに気づいたキコは、家を飛び出し探し回る。
少年は港の防波堤の先端に立ち、海に飛び込もうとしていた。

寸前のところでキコは少年を救い、一緒に生きていこうと伝える。

その後、キコと美晴は少年が母親の下に帰らずに生きていける方法を探すことを決意し、街の人々も協力し始めるところで映画は終わる。

<ネタバレここまで>

原作とどこまで違うのか、分からないが、脚本が強引に感じ、最後まで映画の世界の中に入っていけなかった。

強引だと思ったところは次の5つ。

① 安吾と美晴との出会い
キコがトラックに轢かれそうになったところを安吾に助けられ、高校の同級生である美晴と出会うが、そんな偶然はない。

② 食堂での喧嘩シーン
食堂で殺人でも起こりそうな勢いで喧嘩が起こり、キコが怪我を負うが、新名を登場させるための無理やり感が否めない。しかも喧嘩の原因が不明。

③ 安吾のチクリ行為は異常
安吾が新名とキコの関係を新名の会社にチクるが、その行為は異常。キコを愛しているのならば、黙って見守るのが普通。

④ 安吾の自殺
安吾は母親にトランスジェンダーであることを受け入れてもらったのだから、以前よりも気持ちは楽になっているはずなのに、自殺する動機としては弱い。自殺させた方がドラマチックになると安易に考えたとしか思えない。

⑤ 少年の自殺未遂
虐待する母親から離れられ、以前よりも安全安心な状態になっているにも関わらず自殺するのは不自然。これも盛り上げるための無理やり感が強い。しかも、少年がいなくなってすぐに見つけるのも都合が良すぎ。

そもそも「52ヘルツ」というのは、「仲間に聞こえない」という意味なのに、助け合いのドラマになっていて、映画のタイトルと中身に矛盾がある。

それと映画の序盤で家族から虐待される毒親を持った人の物語かと思いきや、安吾が出てきてトランスジェンダーの苦しみも入ってきて、テーマというか、映画が訴えかけるメッセージが、ややぼやけた感じがした。

物語とは直接関係ないが、変なカメラワークが気になった。
二人きりで話をするシリアスなシーンを、手持ちカメラで回り込みながらの撮影。

観客が二人の間近にいる感覚になるのだが、それに違和感。
私自身、だれかと二人でしゃべっていて、知らない人がすぐそばでジロジロ見ていたら気持ち悪い。
この撮り方が、各シーンにいい影響を与えているとは思えない。
手持ちカメラで接近して撮影するのはバイオレンスシーンとアダルトビデオだけでいい。

全体として感動しない感動ポルノ映画だった。
あくまでも個人的な感想だが。

成島監督の映画は、これまで何本か観てきたが、どれも印象になく、どちらかというと低評価だった。

体質の問題。
私にとって成島監督の映画は体質的に合わないだけ。

本作「52ヘルツのクジラたち」は、どの映画レビューサイトでも高い評価を受けている。
今回の私のレビューは、あくまでも「一つの参考意見」として聞き流して欲しい。

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