「枯れ葉」ネタバレ入り映画レビュー:独自の魅力と感動が待つ81分の愛の物語

公開から2か月遅れで映画「枯れ葉」を鑑賞。
もっと早く観たかったのだが、私が住んでいる岡山では先週から公開スタート。
もちろんシネコンではなく単館系ミニシアターでの公開。

本作はフィンランド映画。
アキ・カウリスマキという巨匠が監督。
脚本もアキ監督。

舞台はフィンランドの首都ヘルシンキ。
そこに住む独身の中年男女のラブストーリー。

CMを観る限りでは、しっとりとした恋愛映画だと思っていたら実はコメディシーンも多く、ラブコメ映画だった。

なんと上映時間は81分。
中編映画に近い時間。

最近は3時間映画も多い中、81分は実に気持ちがいい。

個人的評価としては4.2点(5点満点)。
優秀作。
しょうもない恋愛映画なのに、観ている人を瞬く間に映画の中に包み込む、魔法のような映画だった。

<ネタバレあらすじ>

スーパーで働く独身中年女性「アンサ」は、主に賞味期限切れの商品を廃棄する仕事を担当していた。

アンサはときどき廃棄する商品を廃棄せずに、貧しい人に渡したりしていた。
しかし、そのことを警備員に見つかり、クビになってしまう。

一方、粉塵まみれでリサイクル物を取り扱う現場で働く中年独身男性「ホラッパ」は、人生に希望を持てず、他人と交流を持たないでいた。

ある日、ホラッパは職場の友人から半ば強引に誘われ、カラオケバーに行く。
するとそこにはアンサとアンサの友人がいた。

ホラッパとアンサは初対面であったが、何故か二人は魅かれあう。

無職となったアンサはパブで働き始める。
しかし、パブの経営者が麻薬の密売で逮捕されてしまう。

経営者が警察に連行されるところに人だかりができ、そこでアンサとホラッパは再会する。
再び職を失ったアンサをホラッパは食事に誘う。

その後、二人は映画館でデートし、映画館を出たところでアンサは電話番号を書いた紙をホラッパに渡し、去っていく。

しかし、ホラッパはタバコをポケットから出したところで、電話番号を書いた紙を落として失くしてしまう。

次の日、紙を失くしたことに気づいたホラッパは、日々、歩いてアンサを探すが見つからない。

そんな中、ホラッパは仕事中にケガをしてしまい、それを切っ掛けに勤務中に酒を飲んでいたことがバレてクビになってしまう。

ホラッパはアル中だった。
クビになったホラッパは、建設業を選び工事現場で働く。

ある日、ホラッパは以前に二人で行った映画館の前でアンサと再会する。
ホラッパが電話番号を書いた紙を失くしたことを伝えると、アンサは自宅に招待すると言い、住所を書いた紙をホラッパに渡す。

次の日、ホラッパはアンサの自宅を訪ね、食事をごちそうになる。
食事後、アル中のホラッパは持ってきた酒を隠れて飲むが、アンサに見つかってしまう。

アンサはアル中の男とは付き合えないといい、それを聞いたホラッパは怒って出て行ってしまう。

ホラッパは酒がやめられず、また仕事中に飲んだところを見つかりクビになってしまう。
ホラッパの飲酒量は更に増えていったが、それに比例するようにアンサへの思いも強くなっていく。

どん底に落ちたホラッパは断酒を決意し、持っていたアルコールを全て捨てる。
そしてホラッパはアンサに電話をかけ、断酒したことと再会したい気持ちを伝える。

アンサの自宅に来ることを許されたホラッパは家を出てアンサの下へ向かう。
ところが、出発して直ぐのところで路面電車に轢かれて意識不明となってしまう。

数日後、ホラッパの友人がアンサを見つけ出し、ホラッパの状況を伝える。
昏睡状態のホラッパであったが、アンサは何度も病院に見舞いに行く。

ある日、ホラッパは目を覚まし、退院の日を迎える。
病院を出るとアンサが待っており、二人で歩いているところで映画は終わる。

<ネタバレレビュー>

単純で単調なラブストーリーなはずなのに、全く眠くなることなく、気が付くとアンサとホラッパの世界に入り込んでいるから不思議。

ほぼ同じような感覚に陥った映画が、昨年末に公開された「PERFECT DAYS」。
「PERFECT DAYS」も超絶シンプルな初老男性「平山」の物語で、知らぬ間に観客は平山の世界の中にいて、妙な幸福感に包まれる映画だった。

「PERFECT DAYS」の「平山」と同じく、本作「枯れ葉」でもアンサとホラッパの過去は描かれないが、それが非常に映画にプラスの効果を与えている。

また映画内で、アンサとホラッパの悲喜こもごもな感情に合わせて、多くの歌が挿入されるが、そのどれもが素晴らしい。
ちゃんと歌詞も字幕で出るのだが、そのときの二人の心情にぴったりの曲になっている。

そして全ての出演者のセリフは棒読みで、身体の動きもほとんどない。これはアリ監督の作品の特徴でもあるらしい。

アリ監督ほどの巨匠になると、役者の演技が邪魔に思えてくるらしく、アリ監督と同じような演出をされる方は意外に多いらしい。

実写ではないが、宮崎駿監督がいい例。
宮崎監督の中期から後期の作品には、ほとんどプロの声優が出ていない。
(個人的にはプロの声優の方が好き。)

棒読みの方がリアリティを感じるのか、その影響で観客が映画の世界に入りやすくなっているのかもしれない。

ストーリーとは直接関係ないが、ラジオから流れてくるニュースが、ほぼ全てロシアによるウクライナ侵攻となっているところも印象的。

アンサとホラッパの小さな恋と悲惨な戦争とを対比させているのだろうか。
明確な意図は分からないが、このラジオからのニュースにより、映画の舞台が2024年の現代であることが分かる。

逆にいうと、このニュース以外は映画内の時代が分かりにくくなっている。
1960年代に見えなくもない。
この演出は監督が意図的に行っているもので、普遍的な愛の物語として仕上げたかったからだと思われる。

81分という短い映画だが、その間、観ている人を愛の世界に没入させ、幸福感に浸らせてくれる作品。

そして中年女性アンサが、映画が進むに連れてドンドン美しく見えてくるのも快感。

アンサとホラッパのように、どこか失意の中にある人や、心がささくれ立っている方々に是非観てもらいたい映画だ。

一番最初の日本公開日は昨年末の12月15日だが、地方にあっては今月から公開されるところも多く、まだまだ劇場で鑑賞可能。

アクション映画でも、スペクタクル映画でもない本作ではあるが、この全身が幸せに包まれる妙な映像体験は家庭用モニターでは味わえない。
是非、公開中に映画館で観てもらいたい。

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